りん、と、鳴った。
 そのたびに嬉しそうな顔をするから、どうしようもなくつらかった。




風鈴



 りん、と鳴った。
 壊れた風鈴をどこからともなく拾ってきたのは、矢張(やっぱ)りギンの方だった。
 あたしはいつだってそうだ。
 あんたもいつだってそうだ。
 どうしてこんなことになっちゃったの――。
 何も言わずに、手も伸ばさずに、目の前に並べられたものたち。
 問えば少年は答えのかわりに笑顔を寄越(よこ)した。
 そのたびに嬉しそうな顔をするから、どうしようもなくつらかった。



 あたしはあんたになにもしてあげられないのね――。
 ギンがどこからともなく採ってきた果物や、干した野菜や、どう見ても売り物として
並べられていたかたちのよい南瓜をながめて、乱菊が朧(ぼんや)りいうと、十五になったばかりの
少年は、いつだってただこう言うのだ。
 ――乱はここにおるやん。
 そのたびに嬉しそうな顔をするから、どうしようもなくつらかった。



 りん――。
 また、鳴っている。今度は乱菊が拾った。欠けているけれど、あかい金魚の絵がついた、
奇麗なやつだ。
 風鈴はええなあ、と、唄うような声がする。
 懐かしいなあ、聴いてるだけで涼しくなる――。
 虚子やね。
 わかんないわ。あたしはあんたみたいにものを知らないもの。
 でも、
 気にいった、尋ねると痩せぎすの手が伸びて、ふうわりと長く伸びた髪を撫でる。
 乱はええのに、ここにこうしているだけで、それでええのになあ――。
 今度は何、難しく考えてしもたん?
 乱菊はただ笑った。鏡に映してみなくてもわかる、ひどくできそこないの笑みだった。
 けどなあ――。
 男は伸びをするようにいった。
 なあ乱、
 死神になろうか、
 此処を出て――。
 振向いた少年はあたりまえのように手を伸ばす。


 ついておいで、乱菊――。


 気がついた時には、うなずいていた。
 逆光のした、十五になったばかりの少年は、
 それでも矢張りうれしそうな顔をするから――。
 どうしようもなくつらかった。








コメント:
風鈴、という言葉をみた瞬間冒頭の文章が出てきたので、赴くまま…。
乱菊ちゃんのお祭りだというのに、思いっきり乱菊ちゃん切げですみません!!!!(汗)
愛だけはあります。(真顔)





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