夏の決意 |
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私が初めて西瓜を見たのは、死神になってからだった。
ギンと二人、身体を寄せ合って生きることに精一杯だったルコン街ではそんな育つのに手間のかかる植物など 存在しなかったし、セイレイ廷でも割りと高価なその食べ物は学生の口には入らなかった。 新人の死神として隊に配属された初めての夏、それは隊舎の中庭で、氷と一緒に大きなタライに複数浮かんで いた。 「なんですか、アレ?」 「京楽隊長の、夏のおやつです」 「おやつ? あの丸いのが?」 「なんだ、乱菊ちゃんは西瓜を知らないのか?」 噂をすればなんとやら、配属された隊の隊長が、夏だというのに派手な着物を死神装束の上に羽織って現れた。 「今日も二人ともかわいいねv」 私と私と一緒に歩いていた伊勢七緒ににっこりと笑いかけ、いつの間にか間に入って両手で二人の肩を抱く。 その手を七緒はピシャリと叩いて「セクハラです」と言い、私はスルリと身をかわす。 「手厳しいな、七緒ちゃんは。乱菊ちゃん、そんなトコは見習わなくていいからね」 「隊長、それ以上仰るなら次回からの新入隊員は男のみで上に申請を出しますよ」 「それは勘弁して下サイ…」 夫婦漫才のような二人の息のあったやり取りに、笑えば隊長は喜ぶだろうけど七緒は嫌がるだろうと中途半端な表情になる。 その表情をどう理解したのか、京楽隊長が「ごめんごめん」と言いながらタライの中から一番大きな西瓜を取り出した。 「こう暑くちゃ仕事にならんでしょ。これ持ってって皆でお食べ」 手拭いでザッと拭かれたそれを手渡された時、子供のボールのような感触を想像していた私は予想外の重さにそれを支えきる ことができなかった。 「あ、申し訳ありませ……」 グシャリ。 私の足元で西瓜が潰れた。 丁度大人の頭くらいの丸い物体がパックリと割れ、そこから流れ出る赤い液体と崩れた中身。 それは、流魂街で見慣れた惨状を思い出させる。 「うっ…」 平和な瀞霊廷での生活に慣れていた私は、思わず口元を押さえて蹲った。 「松本さんっ」 「大丈夫…です」 ギン……あんたは今どこにいるの? 血生臭い場所を手と手を取って駆け抜けた相棒の名を心で呼ぶ。 互いの身一つで流魂街を抜け出してから、統学院にいた頃には遠くからでもその姿を見れたけれど、死神として配属されて からは全くと言って良いほど姿を見ない。 会いにも来ない。 顔に張り付いたような笑顔の下に何かが潜んでいるのを感じて不安になる私と、不安を感じている私に不安を感じているアンタ。 私はアンタを探して、アンタが居そうな場所に足を向けるのに、まるで避けられているかのように会うことが出来ない。 ううん、きっと避けられてるのね。 受け止めることのできなかった重さが、アンタの存在と重なる。 「私は大丈夫です」 アンタがいなくたって、ちゃんとやって行ける。 アンタが瀞霊廷という海を野心という羅針盤で進むのなら。 私は足手纏いにはなったりしない。 本当のアンタは優しくて寂しがりやだから…… 安心して残せるようになってあげる。 心が血を流しても、笑えるように強く。 |
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コメント: 夏祭りっぽく軽く明るい話を書く筈が「この夏、西瓜食いたくなくなるよ」な話になってしまいました。スイマセン。 乱菊さんには男に頼らない(内心はともかく)女でいて欲しいのです。 |
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