花火




「うん、なかなかいいじゃない!」

そう言いながら顔いっぱいに悪戯っぽい笑みを浮かべる同居人
彼女があまりにもにこにこと気味が悪いくらい微笑んでいるので
よくないわ、とツッコミをいれるタイミングを失ってしまった

「どう?」

目の前には満足そうな彼女と、彼女の持つ手鏡に写る見慣れた姿
意識しているわけではないが微笑みを浮かべる顔
細い目、薄い唇
そこに映るのはいつもの自分
一箇所を除いては

「何よ、なんか言いなさいよ。せっかく可愛く結ってあげたのに」

本人によるとなかなかの出来栄えらしい
手で探ってみると、後ろで結われた髪は見事にお団子になっている
まさに目の前の彼女とおそろいの髪型だ
お団子からはみ出た髪がうさぎのように可愛らしく揺れる様子が目の前の鏡に映る

 

 

 

 


今夜は年に一度の夏祭り
数少ない流魂街の行事の一つだ
浮かれるのは分かるが、ちょっとこれはないだろう

手鏡を受け取り眺めながら
ちょっと長さ足りやんのちゃうか、とか
あ、後れ毛が‥とか
思っている自分も充分浮かれているのだが


先ほどから賑やかな笛の音や太鼓の音が聞こえている
人里から離れた位置にあるこの小屋にも聞こえるほどなのだから
近くへ行ったらどうなるんだろう
普段からは想像できないほど活気に溢れる人々
夜なのに明るい空
終盤には花火も打ち上げられるはずだ
そんなことを考えるだけでも楽しくなってくるのだから仕方がない

 


「そろそろ行こか」

この髪型は気になるが、彼女が喜んでいるのだから
こんなに浮かれた彼女もなかなか見ることはできないだろうから
これも仕方がない

「うん!」

いつもよりいい返事
彼女のその顔が普段からは想像できないくらい可愛らしくて思わず吹き出してしまった

「ギン、あんた浮かれすぎ!」

そう言って笑う乱菊
それはお前やろ、とツッコミを入れるのも忘れる程可笑しくて笑った
乱菊が笑うたびその髪が揺れて
自分のそれとは違い、妙に色っぽいなと思いながら

 

 

 

 

 


街中に入っていくと
やはりそこは活気に溢れ、大勢の人が行き交っていた
いつもは質素で貧しい生活をしている人たちがこの日ばかりは少しだけおめかしをして
皆、頬が紅潮している
自分達もまわりから見たらそうなのだろうけど
少し可笑しい

確か花火が上がるのは奥の空き地だ
そこまで辿り着けるのか不安なほどの人の波
浮かれ気分が少し覚めて、二人しばらくその様子に見入っていた

 

 

「おーい。向こうの空き地で花火やるらしいぞー」

誰かが大声でそう言った

「え?早くない?」

乱菊がそう言うと同時に、その手を掴んで

「行こ」

思いきり駆け出した

「ちょちょ、ちょっと!」

それまでいろんな方向に行き交っていた人々は皆同じ場所を目指して歩きだしていた
間に合うだろうか

 

 

 

 

 

 


人の波を掻き分けてようやく空き地にたどりつくと
二人して肩で息をしてその場に座り込んだ
間に合ったようだ

「ギン!手、痛い」

手に力が入らないくらい走ったのに、乱菊の手を掴んだままだった

「あ、ごめん」

その手を離すと、乱菊の薄暗闇の中でも映える白い腕に赤く痕がついていた

「ちょっと!」

薄暗くて表情はよく分からないが、明らかに怒ってる

「折角可愛くしてあげたのに!髪ぐちゃぐちゃじゃない!」

ああ、そっちか。思わず苦笑い
後ろを向かされ、また髪をいじられるハメになった
今度は薄暗いせいか手間取っているようだ

「別に直さんでもいいのに」

そう言うと

「いいの!」

と言い切られてしまった
変なとここだわるなあ

「そやかて乱菊も髪ぐちゃぐちゃやで」

終わりの合図に肩をポンと叩かれた後、そう言ったけど返事はなく
振り向くと乱菊は慣れた手つきで髪を結いなおしていた
直してやろうかと出した手もそのまま
乱菊女みたいやなぁ、とかそんな事をぼんやりと考えていた

 

 

 

 

そうこうしているうちに大きな地響きがおこり
あっと言う間にあたりが明るくなった
人々の歓声があがる
大人も子供も大はしゃぎ
普段からは考えられない光景だけれど、それよりも次々に空に浮かんで弾ける光に釘付けだ

ボクと乱菊はエサを待つ小鳥のように口を開いてそれを眺めていた
お互いそれに気づくと、顔を見合わせて一斉に吹き出した

花火の大きな音と、人々の歓声でお互いの声が聞こえなくなって
自然に手を繋いだ

握る手の強さで会話をするように
その強さでお互いの興奮が分かった

 

 

 

 


夜空を彩る色とりどりの光に照らされる乱菊の
いつも下ろしているのでなかなか見られないうなじも
そこから漏れるその後れ毛も
何もかもが艶っぽくて色っぽく見えた

内心花火どころではなかったのだけれど
その名の通り花のような可憐な光
美しさのあまり出るため息をかき消してくれる人々の歓声


ボクは花火に見とれているように見えているだろうか

 

 

 

ギンと手を繋ぐのは初めてではなかったけれど
人の波をすり抜けるように走っている間、掴まれていた手は
なぜか怖いほど違う人の手のようで
男の人の手のようで

ギンの髪を結っているとき、手が震えていたのを知られていないといい
髪を結っている間の顔の赤さを知られていないといい

内心花火どころではなかったのだけど
染まった頬を隠してくれる次々と落ちてくるたくさんの色の光


その美しさに頬が紅潮しているのだと思われているだろうか

 

 

 


頬が火照るのは人々の熱気のせいだけではなくて
握った手に思わず力が入ってしまうのは興奮のせいでもない
この気持ちがなんなのかとっくに分かってる

ギンはどう思っているんだろう
ただ花火に見とれてるだけだろうか
こんなふうに思ってるのは私だけなのかな
この気持ちは私だけなのかな

 

 

明日になったらいつもの元の生活に戻って
ギンの悪い癖もそのままで
その度に私は不安になってギンの帰りをひたすら待って、泣くかもしれない

 

 

 

それでも来年も再来年も一緒にここで手を繋いでいられるなら

 

 

二人で夜空に咲く花たちを見上げていられるなら

 

 

 

 

 


もうそれだけでいいから


 










コメント:
幼い乱菊さんが書きたくてつっぱしってしまいました,汗
でも姉さんはお祭り好きなんじゃないかなーと思います。はしゃぎそう。
そしてギンの髪の毛を結ばせたのは私の趣味です,笑





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