朽木ルキア処刑一時間前、尸魂界に緊急報告が入った。
「現世にメノスグランデ出現。至急出動されたし。」
ルキアの処刑は無期延期され、護廷十三隊にメノス討伐の命が下った。
十分後、山本総隊長の指揮の下、メノス討伐特別隊が結成され、臨時隊首会が懺罪宮に
最も近い一番隊邸内で召集された。

臨時隊首会 決定事項
メノスグランデ討伐特別隊
第一総隊長 京楽春水。隊長 日番谷冬獅郎。副隊長 松本乱菊・伊勢七緒
第二総隊長 朽木白哉。隊長 市丸ギン・砕蜂。副隊長 吉良イヅル・大前田希千代。

臨時隊首会直後、第一隊と第二隊に分かれて隊首会がもたれた。




風鈴




一番隊邸内会議室 
 
「気にいらねえな。あの狸じじい。なんだ。この編成表は。」
日番谷は煎茶の入った湯呑みを経机に叩きつけ、眉間に皺をよせる。
「まあまあ。冬獅郎君。踏絵みたいなモンですよ。僕達の真意を試す格好のテスト
でしょう。」
京楽が相変わらずの悠々とした口調で日番谷をたしなめた。そして夕顔をあしらった
白扇子を軽く扇いで、青いぎやまんのグラスで麦茶をきゅっと飲み干した。そう、日番谷
だけでなく京楽もわかっているのだ。この編成表の不自然さを。

旅禍をかばって更木が狗村・東仙とやりあった事はいまや周知の事実となった。狗村と
東仙は四番隊救護詰所に収容され、更木は十一番隊特別拘禁牢に拘留された。この三人が
前線に出てこないのは仕方ない。藍染死亡のため隊長が不在になっている五番隊と救護班の
四番隊隊長の名前がないのも納得できる。戦線に出るほどの余力があるのか疑わしい浮竹
隊長を外したことも。

(しかし、メノス相手に二部隊ってのはよ。山じいの奴、どういう了見だ。自爆覚悟で行け
ってか。)
つい先ほど地獄蝶から、先行隊は第一隊に決定した。二十分以内に出立せよとの伝令があった。
次発隊がいつ到着するのかは知らせてこなかった。

(虚はメノスグランデの波動を感じて集まってくる。おそらく百――いやそれ以上の数の虚が
メノスの周囲に集まってくるとみて間違いない。護廷二部隊のみの戦力では自殺行為に等しい。)
日番谷は冷めてしまった湯呑みを掌の中で硬く握り締めた。
(そもそもメノスは王族特務の管轄のはず。何故俺達に討伐命令が出されたんだ?)

京楽はこれを踏み絵だと言った。テストだと。しかし自分は背後にもっと大きな悪意を感じる。
処刑場で市丸、朽木白哉、そして京楽と鉢合わせた時、京楽もまた朽木ルキアを救いに来たのだ
と直感した。あと数秒、メノス追討の通達が遅かったら、京楽と組み朽木・市丸と一戦交えて
いただろう。
(俺と京楽を謀反人として処罰するには証拠が足りねえ。メノス退治の最中に戦死してくれりゃあ、
格好の厄介払いになるってことか。)

「隊長。」乱菊が隊首室のドアを軽くノックして顔を出した。
(藍染を殺すには隊長ひとりの力じゃ無理だ。本当に藍染を殺ったのが市丸なら共謀者が必ずいる。
俺が市丸を疑っている事は、そいつにもとっくに伝わっているはずだ。) 

「あと十分で出立です。お支度を。」
乱菊の肩越しに七緒の白い顔がのぞく。
(この特別隊編成を強く押した奴、俺と京楽が死んで得をする奴――そいつらは俺達の近くにいる
と見ていい。いや、まさか――)

龍の文様をかたどった黒檀の椅子の背もたれを後ろへ引きながら、京楽は温和な瞳で微笑んだ。
「冬獅郎君。雑魚の虚は席官に任せて、まずは大将狙いだよ。一発でドカーンと決めよう。」
「わかってる。現場で会おう。松本!皆そろっているか。」
ふと浮かんだ凶々しい考えを打ち払うように、日番谷は絽羽織の裾を両手でぱんと強く引っ張ると、
勢いよく椅子から立ち上がった。
「はい。いつでも出発できます。その前にお湯漬けを差し上げます。」
しかし、隊長控室へと急ぎながら、さっきの思いつきが頭から離れなくなった。
そう考えると全てつじつまが合う。雛森が持っていた改竄された藍染の手紙も。そしてそれなら
藍染も油断したに違いない。
(市丸と組んでんのは、山本総隊長なのか?)



灯篭(とうろう)の形をした鉄(くろがね)色の南部風鈴が、控室の軒先で簾(すだれ)越しに
揺れている。透明な金属音がこだまする。
乱菊が用意したしそ飯を、じゅんさいの吸い物でかきこみながら日番谷は聞いた。
「おまえが吊るしたのか。」
「そうです。」
色気のねえ色の風鈴だなと、わさび醤油のついた鱧(はも)を口に運ぶ。
「本当はびいどろの江戸風鈴が好きなんですけどね。釣鐘草や金魚の模様のついたのが欲しかった
んです。」
「だったら、何でそれにしなかったんだ。」
「隊舎の前に風鈴売のおじさんが来たんですよ。南部風鈴専門の。よそへ買いに行く時間はなかったし」
「無理に買わなくても、また今度でもいいだろう。」

「ここで聞ける最後の風鈴になるかもしれないから。」
軽く微笑みながら、柔らかいがはっきりとした口調で乱菊は答えた。
日番谷は彼女の瞳を覗き込んだ。蜜色の瞳が日番谷の瞳をとらえる。
彼女の「覚悟」が伝わってきた。

「バカヤロォ。陰気くせぇ。萱草(かんぞう)色の髪の旅禍が撃退できたんだ。俺にできねぇわけがねぇ
だろ。さっさと片付けてとっとと帰ってくるぞ!それに、おまえは――」
大きく息を吸い込んだ。

「十番隊第七席 竹添幸吉郎です!日番谷隊長!松本副隊長!お時間です!」
七席の声が続きを遮った。

「それに――何ですか?隊長。」
乱菊が小首を傾げる。
「忘れた。行くぞ。」
日番谷は、檜(ひのき)材の引戸を威勢良く開けて、板廊下を歩きながらつぶやいた。
(おまえは俺が必ず連れて帰って来てやる――って言おうとしたんだよ。
ボケェ。)

大股で隊舎の外へ出ると、十番隊隊員が現世への門前で既に整列していた。油蝉が木陰でミンミン鳴いて
いる。乱菊が日番谷の後に続く。乱菊の吐息を背中で微かに感じながら、頭の片隅で思う。

無事に帰ってこれたら――びいどろの風鈴を買ってやろう――

「開錠。」








コメント:
日番谷→乱菊です。松本乱菊夏祭りなのに、日番谷君サイドのお話になってしまいましたが、
本当に気持ちよく書けました。きあぬさん。企画とお題、どうもありがとうございました。





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